19歳の輪郭
<絵:うさくん先生>
決断と
行動と
そして未来
僕が僕であるための輪郭
BACK
試し読み
うりぼうに罪はない
<絵:うさくん先生>
うりぼう is かわいい
BACK
地下図書館の女生徒たち
<絵:うさくん先生>
骨壺に納まるのは誰
BACK
地球夜のうさぎは
なに見て跳ねる
<絵:うさくん先生>
折しも
地球齢十五
満地球の夜――
BACK
試し読み
ぼんやり原の
モロー・ウェーン
また風が吹くまで
BACK
19歳の輪郭
「なにが起こってるかわかってるな。お前が決めろ」
それを受け止めて、子供は、じっとシーガルという若い僧を見て、それから同じ時間だけ女を見て、席を立った。
女を見る子供の目は、なにも言っていなかった。敵意はもちろん、哀れみも申し訳なさも、本当になにも乗っていない。ただ、当たり前にまた朗祷の時間になれば顔を出すこと、それだけはどうしてかわかって、女は嘆くこともできなかった。
少し考えるように時間をおいてから、子供は若い僧の側によって、頭布の端を握った。
「それでいいんだな?」
子供は答えない。ただ、次の親方衆の夕の祈りの時間に間に合わなくなるだろうと急かすように、子供の体には大きすぎる砂盆を持とうとして、僧が横から持ち上げる。
そこに割って入る隙がないと考えるのは、感傷に酔い過ぎた女の視点だ。
実際にはには、べたついていない互いの了承だけがそこにあった。
「気が変わったらいつでも来ていいからね、明日もちゃんと来てねえ、マーウィア」
名前にだけ反応する飼われた動物のように、また子供がにこりと笑顔を向けて、家の戸は閉まった。
そこまで涙を見せなかったことだけを救いにして、他所から抱く子を手に入れることができなかったことに、かわいそうな少女は声をあげて泣いた。
(本文より)
BACK
地球夜のうさぎは
なに見て跳ねる
幼馴染のマイニーが行方不明になったという表現は、あまり正確なものとは言えなかった。住んでいた居住ユニットがもぬけの空になっていたからだ。しかも、正式に利用解除手続きが済まされていたと聞けば、もっと大きな事情があったのだろうと察しをつけることぐらいはできた。
自分と同い年で十五歳でしかないマイニーが、たったひとりで生活をしているのは、けっして普通のことではなかったが、月ではそれほど珍しいというわけではなかったし、そもそも自分だってヘリウム3採掘現場で両親をなくし、保護の下で一人暮らしをしていたネーテル・ランドには親近感を覚えるところが大きかったので、なにかと気にかけてきたこれまでだった。
もちろんネーテルにしても十五歳の少年でしかなかったから、できることは限られていた。差し入れのようなことを試みることも多かったが、その全てはささやかなものでしかなかった。
それでも、マイニーはその都度うれしそうに笑ってくれた。遠慮がちに、けれど、けっして断ることはしないでいてくれたことがネーテルにはうれしかった。人の気持を無碍にしないよう気を使ってるんだなとネーテルにもわかった。それは同い年でありながらちょっとした敬意を覚えさせることでもあった。
だから、もっとマイニーを助けられるような人間に早くなりたいと思った。
「もう少ししたらさ、僕もヘリウム3の採掘員に志願しようと思うんだ。三級作業員なら難しい作業もないって話だし、それでもたくさん給料をもらえるっていうから。そうしたらさ」
もっとマイニーを助けてあげられると言うのは憚られた。お金を理由に関係を良好にしたいというのは卑怯なことだと感じたからだった。
(本文より)
BACK